スプリングバンク 10年 ニューラベル 英国向け 2017年リリース 46%
評価:A++
香り ブラッドオレンジ、ハーブ、少しパイナップル、しっかりと太い麦感、焦げた穀物、魚醤、タール。
飲むと香り通りのしっかりめのオレンジ、ババロア、太い麦のコク、バンクらしいタールのようなピート、魚介だし、クローブ、余韻はウッディで、粉っぽいテクスチャー。
スプリングバンクは1828年、アーチボルト・ミッチェルの非合法蒸留所の跡地に、姻戚関係にあったレイド家のウィリアム・レイドが創立したとされています。アーチボルト・ミッチェルにはウィリアム、ヒュー、ジョンという息子がおり、1837年にはウィリアム・ミッチェルとジョン・ミッチェルがJ&W ミッチェル社を設立し、J&Wに経営権が移りました(ヒューはアーチボルトと共に、1825年にリークラハンRiechlachan蒸留所を設立しています)。
その後、ジョンとウィリアムが対立、ウィリアムは独立し1872年にグレンガイル蒸留所設立します。ジョンは自分の息子のアレクサンダーを共同経営者として率いることつぃ、J&Aミッチェルを設立し、今日まで至ります。現在では数少ない独立資本の蒸留所ですが、伝統を守るウイスキーとして、今日まで至っています。
また、1969年にはボトラーズのケイデンヘッドを買収し、ボトリング設備も備えています。
スプリングバンクのマネージャーには、2001年まではあの有名なフランク・マッカーディ氏、2002年からはスプリングバンク、2004年からはグレンガイル蒸留所のアドバイザーを務めていたとのこと。現在のマネージャーはキャンベルタウン出身のギャビン・マクラクラン氏です。
さて、このスプリングバンクですが、今年に入り英国向けにリリースされたボトルのようです。21年などはこのラベルになっていましたが、今回から10年もこのタイプのラベルになったようです。周りでの評判も良く、飲んでみたいとずっと思っていましたが、今回願いが叶い、さっくりとテイスティングしてみました。
飲んでみると、しっかりめのオレンジや淡いトロピカル感に、バンクらしいタールっぽいピートがあり、飲んでみるとクリーミーさもあり、まるでババロアのようなフルーツデザートを感じました。加水ですがしっかりと飲みごたえがあり、これがオフィシャルの10年でリリースされていることに驚きを感じます。バンクは経年変化でどんどん良くなっていくイメージがありますが、恐らくこれもどんどん良い方向に触れていくのだろうと思うと、買えるだけ買っても良いボトルでしょう。日本入荷の時期は不明ですが、久々に買いだめしたくなるような驚くリリースでした。
レッドブレスト 1991 25年 シングルポットスチル 53.0%
Midleton Distillery Redbreast Aged 25 Years for Celebrating the 60th anniversary
for La Maison du Whisky
Single Pot Still All sherry single cask 53.0%
評価:A ++~S
香りは皮付きブドウ、アプリコット、プラムジャム、オレンジムース、穏やかな麦、ナッツ、オイル、バニラ、奥に少し出汁感やタールっぽさ。
飲むと香り通りの果実感、しっかりとした麦、カラメル、クランベリージュース、少しスパイシー、少し華やかな麦感とコク、しっかり目のウッディネス。余韻はウッディネスが強く、ドライでスパイシー。
フランスの酒販店、ラ・メゾン・ド・ウイスキー(LMDW)の60周年記念ボトルの一つ、レッドブレスト1991 25年熟成です。
レッドブレストは元々ダブリンのボウストリート蒸留所で生産されていたウイスキーですが、1971年にボウストリートは閉鎖され、1975年より、新ミドルトン蒸留所で製造することになったウイスキーです。1990年代に後述する運営会社のIDGがこのライセンスを取得するのですが、これを機に少しアイリッシュウイスキーの歴史を辿っていきましょう。
元々19世紀から20世紀には一斉を風靡したアイリッシュウイスキー。ダブリンでは1780年にボウストリート蒸溜所が設立されてから、1791年にジョンズレーン蒸溜所(パワーズ蒸留所)。1799年にマローボーンレーン蒸溜所等の大規模な蒸留所の設立が相次ぎました。1757年創業のトーマスストリートと併せ、この4つの蒸留所をダブリンのビック4と呼ぶようになったほどでした。しかし、WWII以降にこの状況は変化していきます。ブレンデッドウイスキーの誕生、アイルランド独立戦争による大英帝国諸国からのアイリッシュウイスキーの締め出し、WWII以降でのアメリカでのスコッチウイスキーの消費拡大(アイリッシュが国内需要を優先し、スコッチが輸出を優先したことや、禁酒法による粗悪な偽アイリッシュが広まったことなどが原因とされています)などにより、アイリッシュウイスキーは衰退の一途を辿り、1950年代に多くの蒸留所が閉鎖に追い込まれました。
1966年には、現存していたジェムソン・ジョンズレーン・コークディスティラリーズカンパニー(CDC)が合併し、United Distillers of Ireland Ltd.が誕生、後にIDC:Irish Distillers Companyとなります。生産も集約化することになり、ダブリンの中心街にあったジェームソンとジョンズレーン蒸溜所は、拡張の余地もなかったため、1975年、ミドルトンに新蒸溜所が建設されました。その後、IDCはブッシュミルズも合併して、IDG:アイリッシュ・ディスティラリーズ・グループとなるのですが、ペルノ・リカール社が1988年にIDGを買収、2005年にはブッシュミルズをディアジオ社へ売却し、現在の流れに至ります。
前置きが長くなってしまいましたが、そうした流れで近年復活が言われているアイリッシュです。レッドブレストは現行レギュラーで手に入るモルトでは唯一のポットスチルアイリッシュウイスキーですし、その点でもアイリッシュらしいんだろうなあと思ってしまうのは自分だけではないはずです。
さて、飲んでみると近年シェリー系の味わいですが、皮付きブドウやオレンジムースといった、少し乳酸菌のようなニュアンスもあり、プラムジャムのような甘いジャム感も奥からほんのり香ってきます。結構樽感も強いのでそこで好き嫌いは分かれそうですが、自分は中々好きな香味です。ブッシュミルズ、76トマーティンやベンリアックなどにありがちなケミカル感も伴っていますが、その割にはそこそこ麦感もあり、複雑さに寄与しているとも言えるかと思います。
賛否両論あるようですが、普通に美味しいウイスキーだと思いますし、スコッチにはあまりないこのニュアンスは、ハマる人にはハマるんじゃないかと…特に関西圏で人気が出そうな印象です。評価を付けるのも難しいですが、個人的にはS付けたいところですけど、客観的には現時点でそこまでの評価を得られないんじゃないかなあと言うのが正直なところです。ただ、経年変化でプラムジャムのようなベッタリとした甘味が前面に出てくるかもしれませんね。瓶熟させておいても良いのかもしれません。今後も楽しみなボトルでした。
6月から施行される酒類法改正についてざっくりと調べてみた
あんまり本筋ではないですが、酒税法改正の要旨について、いくつかHPをみてまとめてみました。ビールは上がる、ウイスキーは上がらないという話がありますが、気になったので調べてみた次第です。
尚、あくまで1ドリンカーであり、ネット上の記事を参考にして個人的な考察を書いた記事ですので、その正誤について間違っていても責任は負いかねます。
ざっくりと
法令について
今回の改正をざっくり言うと、
①原価を割って売ってはいけないぞ!(セールなどの一時的な値引きや、季節品などのオフシール割引などは除く)
②ここでいう原価っていうのは、独禁法でいう仕入れや製造時の原価、輸送費の他に、人件費なども含むぞ!
ということのようです。
人件費のような、売れるかどうかに関わらず掛かる費用は今まで原価とは見なしていなかったようなのですが、今回の改正でその人件費まで含めないと法令違反となるようですね。
背景
この背景にはスーパーの価格小売りの過激な競争を抑止したり、小売り販売業者の保護という89年以降の酒類免許の改正や、00年代の規制緩和により酒屋が壊滅的な状況となっただけに、今更保護というのもちょっと疑問です。スーパーの競争を抑えるための法令という側面の方が強そうです。
スーパーなどの大手に対しては、販売量に達した場合にリベートと呼ばれる奨励金がメーカー側から支払われていたことがあったようです。酒類以外の領域でもありますが、薄利多売でも利益が出る仕組みがあるようで、小売店が大手に勝てない理由の一つとも聞きます。
実際どんな影響が?
実際の消費者への影響というのはどうでしょうか。資金力の高い大手スーパーなどは薄利多売でしょうから、大手ビール会社などの価格は値上げするかもしれません。一方で、自分が掲載しているような限定ものメインのウイスキーは、そもそもずっと同じ商品売っているわけでもありませんし、あまり影響はなさそうな気はします。今まで生き残ってきた酒屋は、販売商品を見直したり、新たな業務展開をしていってたりと、薄利多売とは少し離れた所で販売して生き残っていることも多く、自分の飲むウイスキーもその業態の転換の一つの結果でしょう。
ドリンカーが考えておいた方が良さそうなこと
さて、我々ドリンカーはどんなことを考えていくと良いのか。探していくと安い酒屋はあるんですよね。中には数万のウイスキーに利益を500円くらいしか乗せていない酒屋さんもあります。安いところで買うのも良しだし、安くはしない代わりに色々オプションやサービスをつけて販売している所など、色々なやり方で販売されているかと思います。
直接ブルワリーやディスティラリーと関係を持ったり、プライベートボトルを販売したりという酒屋さんもありますすし、逆に今まで販売してくれていた酒屋が閉店や業務縮小に追い込まれている例もあります。
当たり前のことなんですが、好きな酒屋に残ってほしければそこから出来るだけ買いましょう、ということが大事なんじゃないかなーと。ネットで様々なものが買える昨今だからこそ、こういう機会に個の繋がりが大事かもしれませんね。
参考
6月から酒類安売り規制強化、改正酒税法について | 企業法務ナビ
インペリアル 1995 18年 ザ・テイスター 56.2%
評価:A++
香りはオレンジ、洋梨、生クリーム、ハニーシロップ、ベイリーフ、オイリー、チャーした樽、少しジンジャー。
飲むと厚みのある麦感・強いコク、オレンジ、ハニーシロップ、焦がした樽、バニラ、余韻は焦げのある樽感、タンニンやスパイシー。
スコッチモルト販売のテイスターシリーズより、吉村氏セレクトのインペリアル 1995年です。
ヴィクトリア女王在位60年を記念し、1897年に設立されたインペリア蒸留所。ダルユーイン蒸留所の第二蒸留所として、トーマス・マッケンジーによる設立ですが、奇しくも設立3年後の1900年には操業停止、1925年にはDCL社に吸収合併という運命を辿ります。子会社のSMD社が運営してましたが、1985年に操業停止、89年にはアライド・ディスティラリー社に売却され、操業再開されましたが、98年ころには再度蒸留停止、2005年にシーバス・ブラザーズ社が買い取り、閉鎖としています。その後跡地にはダルムナック蒸留所が建設されています。今月スコットランドに行った方の写真の中に、グレンファークラスの貯蔵庫にダルムナックの原酒が眠っている写真がありました。ファークラスの貯蔵庫が大きいため、貯蔵庫の貸出もしているためにファークラスにおいてあったようですが、いずれにしてももう操業は開始されているようですね。
さて、テイスターシリーズはお馴染みの吉村氏。日本を代表する著名なテイスターによるセレクトということで、95インペリアルの中でも飛び抜けたボトルを詰められました。しっかりとしたバーボン樽熟成のウイスキーで、ここまで質の高い出来もそうそう無いと思います。今回飲んだ際は、若干焼けた樽感が気になって評価を下げましたが、これは飲むタイミングの問題だと思いますので、もう少し早く飲めばそこまで樽感が目立たずに寄り美味しく戴けたのかな、とも想像します。大変美味しいインペリアルでした。
クライヌリッシュ 1989-2009 ザ・チェスシリーズ「クイーン」 54.0%
評価:S
香りはアプリコット、オレンジオイルなどの複雑な果実香、バニラカスタードクリーム、麦の甘い香り。
飲むと口当たりはクリーミー、キャンディや糖度の高い野菜、アプリコット、オレンジ、陶酔感のある柔らかな麦の甘味、ワクシー、程よくスパイシーなウッディネス。
信濃屋のチェスシリーズより、クライヌリッシュ1989年、2009年ボトリングです。
現在のクライヌリッシュは1967/1968年頃に拡大工事の一環で建てられたもので、旧クライヌリッシュはブローラと名付けられました。当時DCLはカリラ・マノックモア・クライゲラキと改装を立て続けに行っており、このガラス張りの建築様式をWaterloo Streetと呼ばれています。
6基のスチルがあり、全てガス直火で行われ、2011年からは24時間体制で稼働しているとのことです。
さて、このシリーズは信濃屋さんのプライベートボトル・シリーズである、チェスシリーズの第5弾です。噂によると元々6本シリーズだったけれども、某ボトルのボトリングの都合で10本になったとかならないとか…とにかく、プライベートボトル10周年という今年に、10本目のチェックメイトをリリースし完結しました。キングホワイト/ブラック、チェックメイトはゲットが中々難しかったと思いますが…。
さて、このボトルですが、アプリコットやオレンジオイルといった何とも言えない複雑な果実香や、砂糖や野菜といった、単なる果実的ではない甘味や、粘性の高いテクスチャーがあり、バランス良くまとまっており素晴らしいボトルでした。89-90年代前半は、スリーリバーズ等様々なヌリッシュがあり、評判が良いものも多い印象ですが、これも例外ではないと思います。さすがのチョイスでした。
このボトルを戴いたBar Nadurraさんは、今回チェスシリーズを全部開けられたようです。全部飲めてはいませんが、また東京に訪れた際には戴きたいと思います。ご馳走様でした。
ハイランドパーク ニューメイク スピリット・ドリンク 2010年ボトリング 50%
評価無し
ニューメイクの若々しいアルコール、トゲトゲしさや蒸した野菜のようなサルファリー、角砂糖。
飲むとニューメイクらしい生臭いニュアンスはあるが、サトウキビのような穀物感と共にしっかりとした甘みを感じる。
ちょっと番外編になりますが、物珍しいものがありましたのでご紹介。ハイランドパークのニューポット、2010年ボトリングです。
ご存じとは思いますが、スコッチウイスキーの定義の一つとして、スコットランドでの3年以上の熟成が言われています。そのためスピリッツ扱いでありスコッチウイスキーとは呼べないのですが、ニューポット、ニューメイクとして稀にリリースされることがあります。正直嫌な要素もありますが、熟成による変化を知るためにも、こういうリリースは勉強として重要なのかなーと思います。最近では、厚岸蒸留所のニューメイクをいただく機会があり、その出来の良さに大変驚き感動した覚えがありますが、ハイランドパークという自分の好きな蒸留所でのニューメイクはどうなのか、気になるところでした。50%と加水と思われますが、簡単にテイスティングしてみました。
香りはさすがにニューポット感が強く、荒々しい刺激的なニュアンスや、蒸した野菜のような香りもあります。おそらく硫黄化合物の香りがあり、熟成により樽に吸収される不純物になるのでしょう。
飲んでみると意外にも強い甘みがあり、所謂ヘザーハニーなどと呼ばれる独特の香味の元になるものなのかもしれません。たくさんの香味すら取れませんでしたが、不思議とこのままでも頂ける素晴らしい原酒でした。
オーヘントッシャン ディスティラリーカスク 2005-2017 59.8% #135
評価:A+
香りはダークチェリー、プラム、アップル、レーズン入りのチョコレート。
飲むとダークチェリー、アメリカンコーヒー、ナッティ、シナモンチュロス、嫌みのないレベルでのウッディネス。余韻はスパイシーで厚みがある。
オーヘントッシャンより、蒸留所限定のディスティラリーカスクです。2005年蒸留の12年もののPXカスクというなかなか市場では見かけない珍しいスペックです。お世話になっているバーのマスターがつい最近までスコットランドに行っており、現地で仕入れてきたので、早速いただきました。
飲んでみるとダークチェリーやプラムといった果実感や、シナモンやビーンズといったらしい要素が色々と感じられます。短熟ですがしっかりと仕上がっており、まとまりもあり複雑さもしっかりとあります。以前記事にした1992のオーヘントッシャンとも似たようなニュアンスもあり、オーヘントッシャンのシェリー熟成はこういうニュアンスが多いのかもしれないな、と思いながら飲んでいました。
前回の記事でも話題にしましたが、オーヘントッシャンは現在でも三回蒸留を行っております。短熟でも仕上がりがいいのはその影響かもしれませんね。オーヘントッシャンのディスティラリーカスクは良いものが多いと聞いていましたが、流石のナイスチョイスなカスクでした。