ウイスキーラヴァーの日常

シングルモルト、ウイスキー好きのサラリーマンが、ウイスキーを通じて感じたこと、思ったこと、考えたことなどを綴るブログです。

静岡蒸留所の見学に行ってきました。その①


!注意!
静岡蒸留所は2017年6月現在、一般見学を行っていません。公式ブログでは、2017年夏以降の一般公開を目処に整備中となっております。今回は一般公開前の蒸留所を、酒類の関係者と同伴の上で特別に見学させていただいた次第ですので、ご理解ください。一般見学につきましては、工事完了後に見学可能になると伺っております。詳細に関しましてはGAIAFLOW様の公式ブログをご覧ください。尚、ブログ掲載や写真撮影に関しては口頭での許可を戴いていますが、見学時点の情報であることを重ねてご了承くださいますようお願い致します。

 

 

 6月23日、静岡蒸留所を見学してきました。静岡市の郊外、丁度新東名の新静岡ICを内陸に向かって奥地に入ったところに蒸留所はあります。周囲は林業が盛んな山あいの地で、中河内川の流れる河川の麓に蒸留所は建設されていますが、元々は山の尾根で、護岸工事で作られた谷とのことでした。地質は大きな岩が多く、おそらくは元々扇状地で、河川氾濫のために護岸工事が行われたために出来た谷間でしょう*1。その為、水源には困らなさそうです。水はキレイで、丁度訪問時は鮎釣りが行われていました。

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こんな道を進み、蒸留所に到着します。写真を撮っていませんが、蒸留所の前には薪がたくさん並べられていました。

窓の多い開放的な作りで、この土地らしく木が多く使われているのが印象的です。

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一同は2階のテイスティングルームへ。その後見学工程に移りました。

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案内をしてくださったのはガイアフロー中村社長です。お忙しいところ時間を作ってくださり大変感謝しております。実際には色々と回ったのですが、今回の記事では工程順に沿って記載することとします。

尚、今回のウイスキー製作工程にあたっては、秩父蒸留所の見学記の知識(脚注を除きます)を前提とする記載が時々出てくると思います。今回の同伴者が蒸留所関係者とモルト酒屋という専門家揃いでしたので、自ずとそのようなレベルでの見学となりました。今後の見学がどうなるかは分かりませんが、少し分かりにくいと思われましたら、秩父蒸留所の見学記を参照の上お読みいただくと理解がスムーズかと思います。

malt.hateblo.jp

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1.製麦

まずは製麦から。部屋に入るとまずオレンジの巨大な構造物に圧倒されます。目一杯に引いてもカメラに収まりきらないこの構造物はモルトサイロ(モルトビン)です。クラフトには通常見られないサイロですが、作業効率、安全性、コスト軽減のために敢えて導入したとのことです。中身は2基のサイロに分割されており、それぞれコンテナ一つ分(=17t)入るとのことです。サイロの中にインナーバッグがあり、そこにバルクで入ってくるようです。書物では聞いていましたが、実際にみると圧倒される大きさです。

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グレインビンより自動で1トンを吸引移送し、ディストーナー*2、グレインセパレーター*3を辿って、モルトミルに運ばれます。

基本的に静岡蒸留所はノンピートタイプのモルトを使用していますが、6月の見学時はピーテッドタイプの仕込みを行っていました。モルトの品質も異なるため、試行錯誤しながら行っているとのことでした。

この緑の装置、手前の部分がグレインセパレーターで、奥がエアフィルターです。軽井沢蒸留所のものが活用されています。

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奥の赤い装置がモルトミルです。

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いい写真が撮れてませんでしたが、下にみえる黄緑の装置がディストーナーです。

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 見学時はピーテッド麦芽を使用。イギリスベアーズ社のピーテッドを用いているとのこと。40ppm以上をしてしているとのことでした*4

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軽井沢蒸留所で使われていたモルトミルです。1時間で1-2トンの粉砕能力があるようです。現在は1トン/時間の粉砕で、機械に負荷をかけすぎないようにまわしているようです。ミリングのレートを前日まで研究していたとのことで、少しフラワーが付いています。

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グリスト構成は2:7:1を基準としているとのことでしたが、ノンピート麦芽での話で、ピーテッド麦芽は研究の余地があるとのことでした。*5

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ミルやセパレーターなどの緑・赤の色は軽井沢蒸留所のまま、塗り直しなくされているとのことでした。軽井沢蒸留所の趣を残し、静岡でも新たに動かされています。

2.糖化

 ミルで精麦されたグリストは、計量され1トンがマッシュタンへ運ばれます。

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計量されたグリストはこのタンへ。三宅製作所が製造した、容量1トンのロイタータン(マッシュタン)です。

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見学時は1番麦汁を取っていました。1トンのグリストに対し、67℃のお湯を4000L入れることで64℃になったマッシュで一番麦汁を抽出濾過、タンの下から陰圧をかけているようで、1時間半もあれ濾過まで終わるとのことでした。2番麦汁は2000L、75℃と85℃の2回に分けて投入します。三番麦汁は取らないとのことでした。

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ビールが作れるレベルの、清澄度の高い麦汁に仕上がっています。

分かりにくいですが動画でも撮影してみました。

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お湯を貯めるタンクはなく、湯沸かし器のような装置を使っているとのことでした。

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長くなりましたので、とりあえずはここで一旦区切ります。次回は発酵です。

*1:机上調査では昭和54年に台風により氾濫、昭和57年より河川改修工事が行われたようです。

https://www.pref.shizuoka.jp/kensetsu/ke-320/kasenplan/documents/okitsuseibikeikaku.pdf

*2:小石を取り除く装置です。イギリスやカナダなどの外国産の麦芽はなぜか小石が入っていることが結構あるようで、ミルの寿命を伸ばすためにもディストーナーはあった方が良いでしょう、とのことでした。エアフィルター使用。

*3:細かいゴミを取り除く装置です。これは必須ではないのでは、とのことでした。

*4:本当にそれだけのppmがあるのかは疑問が残るところで、大手であれば工程や時間数を指定した方が良いとのことでしたが、まあ大手だからなせることですよね、と一同苦笑いでした。

*5:ここではかなり興味深い話が聞けました。グリスト構成は必ずしも教科書的な比率である2:7:1である必要はないのではないかという話でした。とある日本のクラフトウイスキーメーカーは4:5:1でやっているところもあると聞きました。どうやらミルのメーカー(同じメーカーでも個体差があるようです。)、天候(天気、季節、湿度)、マッシュタンの濾過板の形状などで、キレイに濾過出来るようになる比率は変わるんじゃないかという話でした。