ウイスキーラヴァーの日常

シングルモルト、ウイスキー好きのサラリーマンが、ウイスキーを通じて感じたこと、思ったこと、考えたことなどを綴るブログです。

グレンロセス 1997-2016 19年 ジュランソン・フィニッシュ クーパーズ・チョイス 46%

 

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Glenrothes 1997-2016
19 year old
Jurançon Finish
Alc:46%
Cask No.: #9455

評価:A+
香りはりんご酢、バタースコッチ、桃やラズベリー、バニラ、オレンジピール、ジンジャー、淡い麦感、少し粘土のニュアンス。
飲むとオレンジキュラソーやマスカットのフルーティーなニュアンスがあるが、すぐに消えしっかりめのタンニンが広がる。土っぽくスパイシーなピート、強くローストしたコーヒーといった苦味を伴うアーシーなニュアンスを強く感じる。余韻には焦げ感。

ザ・ヴィンテージ・モルトウイスキー社はクーパーズチョイスより、グレンロセス1997年、2016年ボトリングの19年熟成、ジュランソン・フィニッシュです。

グレンロセスはスペイサイドロセス地区にある1878年創業の蒸留所で、ブレンド向けとして重宝されているモルトです。1896年からはフェイマスグラウス、1930年代からはカティーサークなどの原酒として使われるようになり、95%はブレンド用に回されます。現在はエドリントンが所有していますが、BB&Rがシングルモルトの販売権を得ており、特徴的な丸瓶でのリリースがされています。

ザ・ビンテージ・モルトウイスキー社は1992年にブライアン・クルークによって始められた会社で、フィンラガンやアイリークなどのブランドが有名かと思います。シングルモルトシングルカスクリリースのものはクーパーズ・チョイスシリーズでリリースされており、今回もそのシリーズになります。

今回は白ワインの有名産地であるジュランソンの空樽でフィニッシュをかけたボトルのようです。香りから酸味やフルーツ感が結構味わえる一方、飲むとフルーティーさというよりもタンニンが強めで、土っぽさも感じます。どちらかと言うとフルーティーさよりも苦味を強く感じました。個人的にはフィニッシュものは香りと飲んだ印象が異なることが多いと思ってるのですが、これも例外ではないように思います。ただ実験的ですし、ジュランソンというもの自体あまり知らなかったので、勉強になりました。ワイン樽は比較的手に入りやすいと聞いていますし、このリリースもそういう意図なのかもしれません。正直フィニッシュものはボトルを抱えるのが怖いのですが、時々フィニッシュものでも美味しいリリースもあったりして、気になってしまう存在です。20mLしか飲めていませんので、今後の変化も気になるところです。

バーンサイド 1989-2013 24年 信濃屋 ザ・チェス アンパッサン

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Burnside 1989-2013 24year old
Shinanoya The Chess en passant
Alc: 52.0%
O/T: 278 bts.

評価:A++

香りは青リンゴ、オレンジ、パイナップル、シトラスやエルダーフラワーのシロップ、軽めの麦の甘味、少し焦げ感。

飲むとバニラ、オレンジ、青リンゴ、パイナップル、キャンディー、ハニーシロップ、太目の麦、焦げ目の付いたビスケット、やや強めの樽感。

 

信濃屋のザ・チェスシリーズより、2014年リリースのバーンサイド、所謂ティースプーンモルトです。

ティースプーンモルトとは、シングルモルトにティースプーン1杯分程度(1滴程度)のごくわずかな他蒸留所のモルトを入れ、ブレンデッドモルトとして販売しているタイプのものを便宜上そう言います。大人の事情により、シングルモルトで販売することの出来ないモルトをこのようにして販売している例があります。バーンサイドと言われるとお馴染みのバルヴェニーで差し支えないでしょう。

イリアム・グランツ社が有するシングルモルトグレンフィディックバルヴェニー、キニンヴィは基本ボトラーズからリリースされていない印象ですが、フィディックやバルヴェニーなんかはときどきティースプーンと言う形で販売されています。
香味はしっかりとしたシトラスや果実感、少しエルダーフラワーのような花のニュアンスと、バルヴェニーらしいといえばらしいしっかりとした麦感を感じます。この太い麦感がバルヴェニーらしく、いいウイスキーだと思います。華やかさの程度も、どぎつい感じの少ない、信濃屋さんらしいチョイスだと思います。美味しく戴きました。

エドラダワー 2003-2016 13年 ポートカスク・マチュアード 55.6%

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EDRADOUR 2003-2016 13year old
CASK: PORT CASK MATURED
Alc: 55.6%
CASK NO:281, O/T: 308bts.

評価:A+

香りはトフィー、ブラットオレンジ、アプリコット、サワクリーム、少し深煎りしたコーヒービーンズ。
飲むとアプリコット、バタースコッチ、コーヒークリーム、チョココロネ、しっかりめの麦のコク、心地良いタンニン。


エドラダワーはハイランド、ピトロッホリー地区の蒸留所にあり、1825年創業。

1800Lの蒸留器という、スコットランドでは最小であった*1ことで知られ、生産量は年間約10万リットル。これは日本で言うと秩父蒸留所に該当する量になります。

2002年には4大ボトラーズの一つ、シグナトリーが同蒸留所を買収し、元ラフロイグ蒸留所のイアン・ヘンダーソン氏をマネージャーに抜擢しています。どうやら1998年にはブレンド用に回していたモルトシングルモルトに回すなどのことをしていたようなので、おそらく98年ころからシグナトリーの介入は始まっていたのでしょう。

 

元々エドラダワーといえばクリーミーな味わいに、石鹸のような独特な香味:パフュームが見られるのが特徴的でしたが、2014年ころからは、日本のモルト界隈で脱パフュームの噂がちらほら出始め、再評価されつつある印象です。どうやら2000年前後より脱パフュームという話が通説で、シグナトリーが蒸留所の掃除をしたためにパフュームがなくなったと言われています。実際には98年ころからシグナトリーが介入していたようですので、説が正しければ98-99年蒸留あたりより脱パフュームがみられるはずです(実際、99年イビスコシェリーは脱パフュームしていたのを確認しています)。

そんなエドラダワーですが、現在エドラダワー第二蒸留所を建設中とのこと。流石だと思うのは、同型のポットスチルを複数作り、生産量を7倍にするとのこと。ユーロ高やポンド安、勿論昨今のウイスキーブームと相まって、相当な需要があるのでしょう。シグナトリーも良リリースが多くなってきましたし、様々な方々の努力のおかげだと思うのですが、for Japanのリリースも多くなってきたように思います。今後も楽しみな蒸留所です。

さて、このボトルはスコットランドに買い付けに行ったバーのマスターが、現地で入手したボトルのようです。2003年ビンテージは、シグナトリーのアンドリュー・サイミントンが指導して蒸留された初めての年のモルトですし、エドラダワーでも特別なビンテージでしょう。香味からは果実香や、エドラダワーに感じることの多いサワークリーム、コーヒービーンズのような豆感もありました。飲みごたえがあり、エドラダワーらしい美味しいウイスキーだと思います。

*1:現在は条件付きでこれよりも小さなものが認められてますが、何れにせよその境界を作っている蒸留器であることは間違いありません。

静岡蒸留所を見学してきました。その③

注意!
静岡蒸留所は2017年6月現在、一般見学を行っていません。公式ブログでは、2017年夏以降の一般公開を目処に整備中となっております。今回は一般公開前の蒸留所を、偶々知り合いの方が見学することになり、同伴させていただいた次第ですので、ご理解ください。一般見学につきましては、工事完了後に見学可能になると伺っております。詳細に関しましてはGAIAFLOW様の公式ブログをご覧ください。尚、ブログ掲載や写真撮影に関しては口頭での許可を戴いていますが、見学時点の情報であることを重ねてご了承くださいますようお願い致します。

 

 前回の続きです。

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4.蒸留

見学先は蒸留に移ります。まず特徴的なのは、3箇所のガレージがあることです。

こちらは直火焚きを行うに当たって、風通しのよい環境を作ろうとしたためのようです。建築当初から直火焚きを考えていないと、確かにこのような設計にならないですよね。グレンファークラスなどがこのような風通しの良い設計になっているみたいです。

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こちらにはスチルが3基ありますが、下の写真は軽井沢蒸留所時代のポットスチルです。ポットスチルは計4基あったようですが、使えるポットスチルは1基がやっとだったようです。このポットスチルも厚さ2mm程度と、かなりギリギリの状態で、ほかのポットスチルは1mm程度のものなど、とても使用には堪えられない厚さのようですね。それにしても長いラインアームが特徴的です。

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こちらはフォーサイス製の初留器と再留器です。形状はバルジ型、容量は初留釜6000L、再龍釜3800Lで、初留釜は世界でも類を見ない薪の直火炊きとなっています。残念ながら見学時点ではまだ稼働していませんでした。

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樽詰めしているところも見ることが出来ました。基本的にはバーボンバレルが多いようですね。

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こちらが初留釜の下にある直火炊きのコンロです。まだテスト段階のようですが、30分に1回は薪をくべる必要があるようです。初留に掛かる時間は一応6時間とされていますが、温度がどこまで上がるかにも依るため、現時点ではどれくらいの時間になるかわからないとのことでした。

作成にあたっては余市なども参考にしたようですが、結局最終的には異なる形になったようです。どのようなスピリッツが出来るのか楽しみです!

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もう少し近くからの撮影。

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軽井沢の蒸留器も近くでみてみます。容量は3500L、スチームコイル式の加熱です。

よく見ると不思議な構造物がついています。

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二つある小窓はサイトグラスですが、元々取り付けられていなかったようです。初留するためにはサイトグラスは突沸を防ぐために必要ですから、もしかすると昔ながらのトントンと叩く手法で蒸留していたのかもしれません。

その下のくびれの部分に穴があるのが見えますが、これは水を入れる場所のようです。コンデンサーのように水を入れて冷やし、突沸を防いでいた?など色々なことが考えられるとのこと、真相はよくわかりません。

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下の方にもサイトグラスが付いています。

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現在は再留器と軽井沢蒸留器で蒸留しています。初留器のラインアームは緩やかな上向き、再留器は下向きになっています。

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奥にあるガラス張りの部屋がテイスティングルームです。

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手前の茶色い柱みたいなものは軽井沢の蒸留器のコンデンサー、左真ん中にあるタンクは廃液タンクのようです。

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再留釜。これは稼働してます。

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まだ稼働していない初留器です。

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直火焚きのため、中心部が凸になっているのがわかるでしょうか。
スチームコイルも入っています。温度が上がるまではスチーム、それ以降は直火になる予定のようです*1。プロペラ状のものはラメジャーと言い、直火焚きのものでの焦げ付き防止に置かれるものです*2

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軽井沢蒸留器のスピリットセーフ。昔ながらの形をしています。

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手前側のはフォーサイス社のスピリットセーフです。

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ミドルカットのチェックのノージングをしました。

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さて、蒸留をみた一行はウェアハウスへと向かいます。

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5.熟成

蒸留の終わったウイスキーは樽詰めされ、ウェアハウスにて長い熟成期間を経ます。

静岡蒸留所の樽は主にバーボンバレルです。ラックもほとんどがバーボンバレルになっています。独特なのはウェアハウスに日光が入ることです。UVなどはカットされており、温度のみ上がるようになっています。一方で周りは杉で囲まれているので、熟成環境としては窓があったほうが温度変化があり良いのかもしれないですね。

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奥に見えるのは軽井沢の蒸留器。

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ここでは使用できなくなった軽井沢のポットスチルも展示されます。

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見てわかるように、釜には補修した部分があります。何せ厚さ1mm程度まで薄くなっていたそうですから、触れたら穴が開くレベルです。

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その他にも今は倉庫的な役割をしており、今後熟成庫は拡張予定だそうです。

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6.試飲

さて、最後にテイスティングへ向かいました。一本杉がお洒落な、美しいカウンターです。

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酒販関係者と同行した経緯もあり、特別にガイアフローの取り扱っているブラックアダーやアスタモリスを中心に試飲させていただきました。

ニューポットは雑味がなくきれいな香味でした。熟成後の変化が大変楽しみです。

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主題から逸れますが特に美味しかったのはこの3つ。

1.ブラックアダー グレンロッシー1996

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 某酒屋で入荷される予感がします。

アムルット10年 グリーディー・エンジェル

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びっくりするくらいの南国フルーツです。

 

BRUGEROLLE 1989

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コニャック好きには重すぎると思われそうですが、コレくらい重いコニャックだと美味しく飲めます。重厚でモルト好きでも楽しめる味だと思います。コニャックやアルマニャックが美味しく飲めないお子様な自分でも美味しいと思えたので、是非試してみてほしいですね。

 

さて、駆け足になってしまいましたが、静岡蒸留所の見学記を書かせていただきました。蒸留所によって様々な香味のウイスキーが出来るように、蒸留所によって異なる理念で異なる原酒が作られ、異なる環境で熟成されて行きます。そんな未来を作る今のディスティラーの皆さんの熱い思いやこだわり、したたかさを感じる見学になりました。蒸留所の皆様に敬意を表し、拙文ではありますが簡単に紹介させていただきました。

静岡蒸留所は一般公開を前提とした作りになっており、また見学が出来るようになった暁には必ず再訪しようと思います。中村社長を始め、ガイアフローの皆様には大変お世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。皆様に蒸留所の雰囲気がこの文章で少しでも伝われば幸いです。

*1:スプリングバンクなどで採用されているパターンと同じかと思います。

*2:3rpmほどの回転数で回転できるとのことでした。

静岡蒸留所を見学してきました。その②

注意!
静岡蒸留所は2017年6月現在、一般見学を行っていません。公式ブログでは、2017年夏以降の一般公開を目処に整備中となっております。今回は一般公開前の蒸留所を、酒類を専門とする関係者と同伴の上で特別に見学させていただいた次第ですので、ご理解ください。一般見学につきましては、工事完了後に見学可能になると伺っております。詳細に関しましてはGAIAFLOW様の公式ブログをご覧ください。尚、ブログ掲載や写真撮影に関しては口頭での許可を戴いていますが、見学時点の情報であることを重ねてご了承くださいますようお願い致します。

 

 前回の続きです。

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 3.発酵

糖化された麦汁は、発酵槽ウォッシュバックに注がれます。
容量は8000L弱で、オレゴンパイン製が4基、静岡産の杉で作ったウォッシュバックが1基ありました。杉製とはまた珍しいですが、今後増設予定とのことでした。

下からみたオレゴンパインのウォッシュバックです。

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こちらが杉で出来たウォッシュバック。

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現在は5基のみ設置されていますが、今後拡大を見据えていることがわかる作りです。

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見学ルートからはこのように上から見えるようになっています。

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こちらもまだ余裕がありますね。

手前一基が杉産です。

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当日の麦汁が注がれています。一番麦汁が注がれ、二番麦汁がこれから注がれるところです。上のプロペラはスウィッシャーです。出過ぎた泡を切る効果があります。

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二番麦汁が注がれているところです。温度は20℃スタートで、温度管理はしていないようです。

わざと上から落として空気を入れているようです*1

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 こちらは2日ほど発酵させたもの。アップルビネガーやプラムといった酸味を伴った赤い果実香がしっかりと香ってきます。ピーテッドということもあるのでしょうが、秩父でみたノンピートとは違う香りでした。

まだ試験蒸留の段階でもあり*2*3、熟成時間は色々試しているとのことですが、3日ほどの発酵時間で7%ほどのアルコールを得るとのことでした*4

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こちらは静岡産の杉を使ったウォッシュバック。現在水につけているとのことでした。何故こんなことをしているかというと、タンニンとアクがあるため、灰汁抜きをしているようです*5。今後はこの桶でも発酵されるとのことで、楽しみですね。

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 長くなっちゃいましたので今回はここまでとします。

 

*1:発酵時は空気を入れたほうが良いのか良くないのか、という議論もあります。まあ嫌気呼吸によってアルコールが出来ることを考えると、空気を入れないほうが良いんじゃないかとも思ってしまいますが、このあたりも議論の余地があるようで興味深いところでした。

*2:尚、酵母はマウリ社のディスティラリードライイースト100%のみ、エール酵母などは現在研究中とのことでした。プレスイーストの方が活性などが良いのでは?といった話もあるようですが、長持ちしないところが難点のようで、ドライイーストを使っているところも多いようです(日本もそうですが、スコットランドもそうみたいです)。有名なイーストの取扱企業としては、旧DCL社であるケリー社やマウリ社がありますが、日本にドライイーストを輸入する際はマウリ社になるんだとか。手持ちの文献ではケリー社もドライイーストを出しているようなことを書いていますが、少なくとも日本では手に入らないようですね。

*3:秩父蒸留所の見学記には、ディスティラリー+ブルワリーイーストの混合の方がフルーティーになりやすいという文献もあるという話を記載しましたが、酵母の扱い易さに関してはディスティラリーイーストの方が良いみたいですね。というのも、例えばエール酵母であれば酵母活性化を行う必要があるようです。酵母活性化というのは一度水で戻す行為の様なんですが、それを行うのにもバケツなどが必要だったり、汚染されないようにある程度滅菌が必要だったりするようです。面白いのは、酵素の活性化にはミネラルが必要ということで、蒸留水などではミネラル分が少ないため活性化には不適だそうで、マニュアルでは「煮沸した水道水(滅菌のための煮沸)」と書いてあるとのことでした。日本でも有名蒸留所の中には麦汁を用いた酵素活性化を行うところがあるようですが、ミネラル等の成分が多くなるほど、蒸留器にカスが溜まりやすかったり、時間がかかるのがデメリットとされています。このような工程が必要とも知らなかった自分としては、大変驚き興味深い話でした。机上調査で調べたところ、このような説明書を見つけました。加水活性はビールを作る際は有名な工程のようですね。

http://www.sceti.co.jp/images/ingredients/fermentation/beercatlg_2016.pdf

静岡蒸留所の仕込み水は井戸水とのことですので、煮沸したらミネラルも多くなるのでしょうか?

*4:一般に木製のウォッシュバックは乳酸菌が住み着きやすく、その蒸留所固有の乳酸菌叢が発酵に寄与するとされています。しかしながら試験蒸留の最初は中々pHが下がらなく、乳酸菌が働いていないんじゃないかと振り返ったそうです。一方でとある古くからやっている蒸留所は、金属製のウォッシュバックであるにも関わらず、3日ほどでpHは3-4まで下がるとのことでした。気温や湿度といった条件が無視できないほどに大きいのですが、ウォッシュバックに住み着いている乳酸菌以外にも、その蔵に住み着いている乳酸菌が関係している可能性もあるのではないかという話をしていました。

*5:樽に使う木材には、赤みと白みという部分があり、その間に白線という赤と白の移行地帯があり、疎水性のため、アルコールがそれ以上染みないようにブロックしているとのことでした。赤みはタンニンが含まれているため、ウォッシュバックに用いる木桶の選別としては、「赤みが薄く」「目が細かく」「節が少ない」ことらしいです。丁度地物の杉で条件を満たすものがあったらしく、今回のウォッシュバック製作に繋がったようです。

静岡蒸留所の見学に行ってきました。その①


!注意!
静岡蒸留所は2017年6月現在、一般見学を行っていません。公式ブログでは、2017年夏以降の一般公開を目処に整備中となっております。今回は一般公開前の蒸留所を、酒類の関係者と同伴の上で特別に見学させていただいた次第ですので、ご理解ください。一般見学につきましては、工事完了後に見学可能になると伺っております。詳細に関しましてはGAIAFLOW様の公式ブログをご覧ください。尚、ブログ掲載や写真撮影に関しては口頭での許可を戴いていますが、見学時点の情報であることを重ねてご了承くださいますようお願い致します。

 

 

 6月23日、静岡蒸留所を見学してきました。静岡市の郊外、丁度新東名の新静岡ICを内陸に向かって奥地に入ったところに蒸留所はあります。周囲は林業が盛んな山あいの地で、中河内川の流れる河川の麓に蒸留所は建設されていますが、元々は山の尾根で、護岸工事で作られた谷とのことでした。地質は大きな岩が多く、おそらくは元々扇状地で、河川氾濫のために護岸工事が行われたために出来た谷間でしょう*1。その為、水源には困らなさそうです。水はキレイで、丁度訪問時は鮎釣りが行われていました。

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こんな道を進み、蒸留所に到着します。写真を撮っていませんが、蒸留所の前には薪がたくさん並べられていました。

窓の多い開放的な作りで、この土地らしく木が多く使われているのが印象的です。

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一同は2階のテイスティングルームへ。その後見学工程に移りました。

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案内をしてくださったのはガイアフロー中村社長です。お忙しいところ時間を作ってくださり大変感謝しております。実際には色々と回ったのですが、今回の記事では工程順に沿って記載することとします。

尚、今回のウイスキー製作工程にあたっては、秩父蒸留所の見学記の知識(脚注を除きます)を前提とする記載が時々出てくると思います。今回の同伴者が蒸留所関係者とモルト酒屋という専門家揃いでしたので、自ずとそのようなレベルでの見学となりました。今後の見学がどうなるかは分かりませんが、少し分かりにくいと思われましたら、秩父蒸留所の見学記を参照の上お読みいただくと理解がスムーズかと思います。

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1.製麦

まずは製麦から。部屋に入るとまずオレンジの巨大な構造物に圧倒されます。目一杯に引いてもカメラに収まりきらないこの構造物はモルトサイロ(モルトビン)です。クラフトには通常見られないサイロですが、作業効率、安全性、コスト軽減のために敢えて導入したとのことです。中身は2基のサイロに分割されており、それぞれコンテナ一つ分(=17t)入るとのことです。サイロの中にインナーバッグがあり、そこにバルクで入ってくるようです。書物では聞いていましたが、実際にみると圧倒される大きさです。

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グレインビンより自動で1トンを吸引移送し、ディストーナー*2、グレインセパレーター*3を辿って、モルトミルに運ばれます。

基本的に静岡蒸留所はノンピートタイプのモルトを使用していますが、6月の見学時はピーテッドタイプの仕込みを行っていました。モルトの品質も異なるため、試行錯誤しながら行っているとのことでした。

この緑の装置、手前の部分がグレインセパレーターで、奥がエアフィルターです。軽井沢蒸留所のものが活用されています。

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奥の赤い装置がモルトミルです。

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いい写真が撮れてませんでしたが、下にみえる黄緑の装置がディストーナーです。

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 見学時はピーテッド麦芽を使用。イギリスベアーズ社のピーテッドを用いているとのこと。40ppm以上をしてしているとのことでした*4

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軽井沢蒸留所で使われていたモルトミルです。1時間で1-2トンの粉砕能力があるようです。現在は1トン/時間の粉砕で、機械に負荷をかけすぎないようにまわしているようです。ミリングのレートを前日まで研究していたとのことで、少しフラワーが付いています。

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グリスト構成は2:7:1を基準としているとのことでしたが、ノンピート麦芽での話で、ピーテッド麦芽は研究の余地があるとのことでした。*5

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ミルやセパレーターなどの緑・赤の色は軽井沢蒸留所のまま、塗り直しなくされているとのことでした。軽井沢蒸留所の趣を残し、静岡でも新たに動かされています。

2.糖化

 ミルで精麦されたグリストは、計量され1トンがマッシュタンへ運ばれます。

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計量されたグリストはこのタンへ。三宅製作所が製造した、容量1トンのロイタータン(マッシュタン)です。

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見学時は1番麦汁を取っていました。1トンのグリストに対し、67℃のお湯を4000L入れることで64℃になったマッシュで一番麦汁を抽出濾過、タンの下から陰圧をかけているようで、1時間半もあれ濾過まで終わるとのことでした。2番麦汁は2000L、75℃と85℃の2回に分けて投入します。三番麦汁は取らないとのことでした。

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ビールが作れるレベルの、清澄度の高い麦汁に仕上がっています。

分かりにくいですが動画でも撮影してみました。

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お湯を貯めるタンクはなく、湯沸かし器のような装置を使っているとのことでした。

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長くなりましたので、とりあえずはここで一旦区切ります。次回は発酵です。

*1:机上調査では昭和54年に台風により氾濫、昭和57年より河川改修工事が行われたようです。

https://www.pref.shizuoka.jp/kensetsu/ke-320/kasenplan/documents/okitsuseibikeikaku.pdf

*2:小石を取り除く装置です。イギリスやカナダなどの外国産の麦芽はなぜか小石が入っていることが結構あるようで、ミルの寿命を伸ばすためにもディストーナーはあった方が良いでしょう、とのことでした。エアフィルター使用。

*3:細かいゴミを取り除く装置です。これは必須ではないのでは、とのことでした。

*4:本当にそれだけのppmがあるのかは疑問が残るところで、大手であれば工程や時間数を指定した方が良いとのことでしたが、まあ大手だからなせることですよね、と一同苦笑いでした。

*5:ここではかなり興味深い話が聞けました。グリスト構成は必ずしも教科書的な比率である2:7:1である必要はないのではないかという話でした。とある日本のクラフトウイスキーメーカーは4:5:1でやっているところもあると聞きました。どうやらミルのメーカー(同じメーカーでも個体差があるようです。)、天候(天気、季節、湿度)、マッシュタンの濾過板の形状などで、キレイに濾過出来るようになる比率は変わるんじゃないかという話でした。

ブラインドテイスティング:ベンリアック1998 ウイスキーフープ向け


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BENRIACH 1998 17yo for the Whisky Hoop

PX sherry finish

香りはアップル、ハニーシロップ、カカオパウダー、バニラ、生木、少しピーティー、しっかりめの麦のニュアンス。
飲むとリンゴ、チョコウエハース、ハニーシロップ、バニラ、強めのタンニン、土っぽいピート、少し草っぽさ。

 評価:A+

 

ブラインド解答

度数はカスクストレングス
地域はスペイサイドなど
熟成年数は17-20年ほど。90年代中頃の蒸留?
ややアーシーでピーティー、ダンネージ式の熟成庫?1st impressionは細い原酒のスペイサイド系の蒸留所と思われ、ベンリアックなどのシングルカスクが思い浮かぶが、店の在庫を考えるに思いつくボトルがない。他ストラスアイラ、グレンキースなどもあり得るかもしれない。今回はアーシーさが気になり、ちょっと過熟のインペリアルの一部のボトルならあり得るかもなと、インペリアルを選択。

蒸留所:95インペリアル

 

ウイスキーフープよりベンリアック1998年、17年熟成のものです。

ホームバーにてブラインドをお願いして出された一杯。勿論なにもわからないのでこういう感じで解答しました。解答を出されたときは「合ったなーこれ!」という印象。前に一度だけ飲んだような記憶がうっすらありますが、あんまり覚えていなかったのは事実です。

 

このボトルはベンリアックファンでもお馴染みの、三宮の銘店メインモルトの後藤さんが選ばれたと伺っております。軽い原酒にらしいフルーツ感があり、さすがのチョイスと思いました。ご馳走さまでした。

 

※現在蒸留所見学などの研修中であり、なかなか更新できない日が出てきています。テイスティングノートはストックあるのですが、記事にするまでの時間がないのが実情です。また更新できるタイミングがあればしようと思いますが、恐らく明日はお休みになります。ご了承下さいませ。