ウイスキーラヴァーの日常

シングルモルト、ウイスキー好きのサラリーマンが、ウイスキーを通じて感じたこと、思ったこと、考えたことなどを綴るブログです。

オーヘントッシャン 1990-2016 26年 モリソン&マッカイ セレブレーション・オブ・ザ・カスク スコッチモルト販売 プライベートボトル 53.9%

 

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Auchentoshan 1990-2016 26 year old
Morrison & Mackey "Celebration of the cask"
cask type:Hogshead, number:#4971
Alc:53.9%

評価:A+

香りはフルーティーでオイリー。オレンジ、ホットレモネード、バニラキャンディ、クリーム。
飲むとしっかりめの麦のコク、樽のタンニン、松ヤニ、月桂樹やユーカリの葉、マカダミアナッツ、少し紙っぽさ、余韻は長いウッディネス。

 

スコッチモルト販売のプライベートボトルとして最近リリースされた、モリソン&マッカイのセレブレーション・オブ・ザ・カスクシリーズより、オーヘントッシャンの1990年です。

 

オーヘントッシャンは、諸説ありますが1817年にジョン・バロックによって設立されました。当時はダントチャー蒸留所という名前だったようですが、22年に倒産、23年にはバロックの息子が買い戻しましたがまた26年には破産、34年にはバロック社のジョン・ハートとアレクサンダー・フィルシーに買収され、オーヘントッシャンという名前にリネームされます。その後も様々なところに所有権が写っていますが、1984年にモリソン・ボウモアが買収、その後サントリーが資本介入を始め、94年にはサントリーが資本となっています。買収前にも、88年からの資本介入、ボウモア蒸留所には89年頃から蒸留所の清掃などの介入が始まったと言われており、オーヘントッシャンもそれくらいから介入し始めたと聞いたことがあります。

モリソン・マッカイはそのモリソン家のブライアン・モリソンとケニー・マッカイが設立したボトラーです。ケニー・マッカイ氏はこの前来日されていたようで、こんな記事がありました(丁度このボトルの特設ページになっていますね)。

イベント :: 特集 :: ● モリソン&マッカイ社が誇るプレミアムレンジ「CELEBRATION OF THE CASK」

上のページにも書いてますが、現在蒸留所を建設中で、もうすぐ稼働するとのことです。同社はモルトの栽培も行っており、フロアモルティングなどもやるのでしょうか?気になるところです。

このボトルがリリースされたときは正直驚きました。モリソン&マッカイはウイスク・イーが輸入代理店を行っていますが、今回はスコッチモルト販売が輸入し販売しています。複数のインポーターが関与していることはよくありますが、にしても珍しいような気がします。まあ、昨今のボトラーズの樽の枯渇具合は半端じゃないという話は聞いていますので、特別なコネクションがなければ、ボトラーは単純に体力勝負となっていくのは自明ですし、恐らくそういう事情もあるんじゃないかと勘ぐってしまいます(あくまでも自分の感想というか妄想です)。どういう事情があれど、日本で良質なボトルがリリースされることは歓迎ですし、どんどんやってほしいと思います。

さて、このボトルですが、先週受けたスコッチモルト販売のセミナー・テイスティング会とサンプルボトル、何度か戴く機会がありました。サンプルボトルは最初硬い感じがありましたが、開いてくるとセミナー時に飲んだ感じと近くなってきました。ローランドらしい軽い原酒にフルーティーなニュアンス。紙っぽさもありますが自分が嫌味に感じるほどのものではありませんでした。少し松ヤニのニュアンス、ホットレモネードやバニラキャンディのようなニュアンスもあり、オーヘントッシャンらしい出来だともいます。

以前記事にしたオーヘントッシャンも程よいシェリーで自分好みなのですが、ローランドらしさ、オーヘントッシャンらしさを味わうのであれば、今回のボトルは非常にわかりやすくてお勧めな一本です。さすがのリリースだと思います。金銭面に余裕があれば一本ほしいところですが、自分なら店でたまに飲んで、らしさを確認したり、やっぱりこうだよなあと感じられるような飲み方をしてみたいです。malt.hateblo.jp

秩父蒸留所を見学してきました。見学記④

前回の続きです。

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5.熟成

一行は第一貯蔵庫へ。

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現在秩父蒸留所には別敷地に第2-4貯蔵庫もあり、第5貯蔵庫が建設中とのことです。

この熟成庫で原酒は長い熟成に入ります。こちらではスコッチと同じく、最低でも3年は熟成されるとのことです。

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熟成庫は暗く、あまりいい写真が撮れないのですが…

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熟成庫の樽の積み上げとしては、こちらは昔ながらのダンネージ式で行っています。土の上に写真のように積み上げて熟成していくものです。同じ大きさの樽では、湿潤で温度差が少ないほど熟成期間は長くなりますので、地面に近い下の方ほど熱交換がなされ、湿潤されやすいです。他の熟成方式としては、白州にあるラック式などもあり、こちらは管理自体は楽なのですが、秩父のような小さな敷地では、樽の大きさを気にせず置け、ダンネージ式の良いところであると仰っていました。

現在秩父蒸留所では5000樽程度が熟成されており、その半分がバーボンバレルとのことです。バーボンバレルも様々なところから回されており、ヘブンヒル、メーカーズマーク、ジャックダニエル…などといった主要銘柄が並びます。同じバーボンバレルでも、ヘブンヒルならバニラ、ジャックダニエルならリンゴといったように味が変わって行くようです。

また、色々な樽を試しているとのことで、シェリーカスクは勿論、ワインカスク、ラムカスクテキーラカスク、最近ではIPAカスクなどもありますね。ワインカスクは国内が多く、またIPAカスクも品質面から国内の樽を使っているとのことでした。今回は見学できませんでしたが、クーパレッジもやっていますので、自社でミズナラ樽などでも熟成が出来る様になっていますし、ちびダルというクォーターカスクが制作出来るのも特徴です。

秩父の夏は35-38℃まで暑くなりますが、その盆地地形のため、冬はマイナス10℃近くまで下がるといいます。その寒暖差が熟成に適した環境とされますし、この寒暖差のためにエンジェルズ・シェアは3-5%になるとのことです。

ブレンダーの仕事についても語られていましたが、勿論良い樽や良いウイスキーをブレンドするということも大事だが、それ以上に樽の中身の品質を管理することも大事と仰っていました。5000樽もの樽ですが、1年に1回は中身の品質をチェックするとのことで、単純計算で1年に5000種類はチェックされていることになりますね。圧倒的な量です。

こちらの写真*1に写っている大きな樽はマリッジ用*2で、卵型のものはフレンチオーク産のワインカスク(WWR)用(2000L)、左手前のものはホワイトラベル(イチローモルト&グレーンブレンデッド)用(10000L) 、また一番奥にあるのがダブルディスティラリーズ用のアメリカンホワイトオーク樽(10000L)*3とのことでした。

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 下は去年撮影時のもの。シャッタースピードが遅くなるのでぶれます…

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BARBADOSの文字が見えます。ラムカスクと思われます。

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JACK DANIELの文字。

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こちらはヘブンヒルですね。

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FINOカスク

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#3826。秩父蒸留所の自社製樽第一号です。

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6.試飲

 見学を終えた一行は、ビジターセンターに戻り、試飲をさせていただきました。

最近のオフィシャルボトル、サンプルボトルなどを戴きました。

サンプルはオロロソ・シェリーホグスヘッド、ブレンデッド状態で熟成させてているカスクです。

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ニューポットも戴きました。

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さて試飲のときには肥土社長も来られ、吉川アンバサダー、肥土社長に色々質問させていただきました。

①クラフト・ディスティラリー秩父を参考にした、というところはあるでしょうか?ウルフバーンが結構似ているという噂を聞いていますが、何か知るところはあるでしょうか?

-知る限りそのような蒸留所は聞いていないとのことでした。ウルフバーンに関しては、少なくとも見学に来たことはなく、フォーサイスの設計の可能性があるとのこと。秩父蒸留所では、フォーサイスの蒸留器は導入したが、蒸留所の設計などはしていないとのこと*4

②2010年頃から原酒がフルーティーに振れたような気がする(気のせいかもしれないが)。製造工程などの変化や変わったことをされた、といった事実があれば教えて下さい。

-特にその頃から変わった、ということはないとのこと。製造工程は試行錯誤の部分が多く、製造工程が安定し始めたのはここ2-3年と仰っていましたので、これからもキャラクターの異なるボトルが色々と出てきそうです。

IPAカスクが最近立て続けに出ていますが、その経緯は。

-もともとビールとのコラボの話は色々と貰っていたようです。2014年かその前からされていたようですが、グレンフィディックIPAフィニッシュを出したときには「うちが先だったのに!」という思いもあったとかなかったとか。現在は国内のブルワリーとのやり取りが多く、単一のやり取りをしているわけではないが、志賀高原ビール(玉村本店)とのやり取りが多いとのことでした。

④レギュラーラインナップにDD、MWR、WWRがあるが、WWRを作ったきっかけは?
DDやMWRはレギュラーやリリースするような経緯がなんとなくわかるが、敢えてワインカスクを使った理由などがあれば教えて下さい*5

-こちらは社長から伺いました。元々様々なカスクで熟成を試している蒸留所であることと、あまり良いカスクが手に入らない時期があり、またワインカスクが大量に入った時期があったとのこと。そのときに熟成させたカスクが良い熟成だったので、そこからリリースするきっかけに至ったとのことでした。特定の銘柄のワインカスクにこだわってはおらず、いろんなもので熟成を試しているとのことでした。

 

 その後も色々とお話をさせていただきました。非常にアットホームで、ウイスキーに対する惜しみない愛情を注いでいるスタッフの方々。運良く2回目の見学となりますが、色んな蒸留所を回ってもやはり素晴らしい見学をさせてくれる蒸留所だと思いますし、その熱意で自分が動かされるところもあると感じました(実際見学レポートを書くモチベーションが保てるのも、スタッフの方々の熱意を見たからというところが大きいと思います)。秩父蒸留所の皆様、有難うございました。この場を借りて御礼申し上げるとともに、かなり冗長な文章にお付き合い頂いた読者の皆様、有難うございました。このような熱意溢れる方々で日本のウイスキーが支えられていることが、少しでも伝われば幸いです。

*1:モルトヤマの店主、下野さんからお借りしました。この度この見学の企画をしてくださいました。この場を借りて御礼申し上げます。

*2:ブレンデッドしたウイスキーは、ブレンドしてすぐに出荷せずに、マリッジするための大きな樽で数ヶ月~半年ほど寝かせた方が味が馴染んで美味しくなるようです。前回見学時の記憶ですが、確か秩父蒸留所では半年ほどマリッジさせているはずです。これは秩父に限ったことではなく、例えばウィリアムグラント&サンズ社のシングルモルトは出荷前に短期間マリーイング・タンという巨大な桶にて味を落ち着かせるという工程を行います。バルヴェニーのタンシリーズなどは、その中でも特別に美味しくなるタンを使っているようです。

*3:見学時に「一昨日届いた」と言っていました。

*4:すべてスコットランドの業者に任せてしまうことは、何かあったときにメンテナンスが遅れたり不能だったりするリスクがあり、その点でもある程度独自で動いたり、日本の業者で賄えるところは賄えた方が運営上良いという話もされていました。納得です。その辺りは厚岸蒸留所が完全にフォーサイスプロデュースですので、是非機会があれば苦労話でも聞いてみたいところです。

*5:秩父から全く関係ないところで聞いた情報では、一般的にワイン樽は手に入りやすいものなんだそうです。その点とも関係があるのか聞いてみたかった次第です。

秩父蒸留所を見学してきました。見学記③

前回の続きです。

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4.蒸留

発酵槽で作られたもろみは、ポットスチルにて蒸留されます。秩父では、フォーサイス社の2000Lサイズのポットスチルが1対使われています。

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初留は発酵液すべてを蒸留し(全留)、アルコール度数20-23%ほどのローワイン(初留液)が700L程作られます。写真撮れていないですがコンデンサーはシェル&チューブ式です。加熱方式はスチームコイル式で、初留と再留で形は異なりますが、スネーク型のスチーム巻になっています。今回見学時は蒸留中でしたので、暑い中での蒸留でした。扇風機が回っているのが見れるかと思います。

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旋回訪問時は稼働前日で、メンテナンス後で銅が磨かれているのがわかります。今回は黒くなっていますね。

ポットスチルの形状はストレートタイプ*1で、ラインアームは少し下を向いています。一般的に、銅は還元剤として用いられ、特に硫黄などの成分や、様々な成分が銅と反応し原酒になるとされます(今回訪問時の銅が黒くなっているのも、酸化反応が起こったためでしょう)。原酒と銅の接触面積が多いと軽い原酒に、少ないと重い原酒になると言われていますが、くびれなどにより蒸気が滞留する空間が出来ると、一部はモロミに戻され、更に加熱されるようになるため、雑味の少ない、軽い原酒になると言われています。またラインアームが上向きだと重力に従って蒸留液が一部戻り、これも軽い原酒になると言われています。今回はストレート型で下向きなので、太く重い原酒を作るのに適していると思われます。

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前回訪問時ですが、初留釜の中です。

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これも稼働前に取ったスピリッツセーフです。後述しますが、ここでミドルカットを行います。

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再留は全部で5時間ほど行われるようですが、全留した初留とは異なり、ニューポットの最初の部分(ヘッド:前溜)と最後の部分(テール/フェインツ:後溜)を除き、熟成に適した部分(ハート)のみを取り出すミドルカットという行為を行います。 このミドルカットのタイミングは、スピリッツセーフの切替タイミングをノージングで判断するとのことでした*2

 ここで、ヘッド・ハート・テールの香りの違いをチェックするコーナーを設けていただきました*3

個人的なノージングで感じた香りは、ヘッドは野菜の煮汁や、少し時間が経って苦味が出てきた時のキャベツの芯のような香りがします。テールはやや機械油のようなべっとりしたオイリーだったり、ツンとした硫黄香も少し感じました。

ヘッドとテールはタンクに戻され再度蒸留しますが、ミドルカットは約10%とのことです。言及はされていなかったように思いますが、かなり絞った数値で、ミドルカットを絞っているとされるマッカランで約13%、最近できたミドルカットの絞りがすごいと言われているウルフバーンでも10%ですので、それくらい秩父も絞っていることになります。

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ここから去年訪問時の写真が続きますが、こちらがボトリング施設です。平日にパートの方がボトリングしているようです。

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前回訪問時にした質問で、「ボトリング時にバッティングした際、最初と最後で味が変わるのか?」という話をしたことがありますが、秩父蒸留所ではそういうことはまず考えられないとのことでした。撹拌をしっかり行ったり、撹拌後にも前後で味のチェックを複数人で行い、違いがあれば再度撹拌する等のことを行っているようです。

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ダブルディスティラリーズです。これは実際にボトルが入っていない箱なんでしょうか?*4

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前回何気なく取っていた写真ですが、よく見るとH28年6月20日の、ノンピートのフェインツと書いてあります。前回訪問時がH28年の9月中旬でしたから、稼働後に再留に使用するために出しておいたタンクだと思われます。

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またまた長くなってしまったので次に進みます。終わらせる気はありますので、もう少しお付き合いください。

 

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*1:ストレートタイプの蒸留所は例えば、スプリングバンク、ロングモーン、マッカラン、カリラ、ボウモア…などが挙げられます。最近の日本のクラフトディスティラリー毎の型を挙げると、厚岸はフォーサイス製ストレート~オニオンタイプ(オニオンはラガヴーリンブナハーブンで使われています)。安積蒸留所は三宅製作所製のストレートタイプ、額田蒸留所はKOVALなどにあるようなハイブリット型スチル、三郎丸蒸留所は独特のローモンドスチルに近いような形:今度見学したときに聞いてみます、静岡蒸留所はフォーサイス製のバルジ型、マルス信州所得る湯所は三宅製作所製のストレートタイプ、長濱蒸留所はホヤ社製の独特のポットスチル(エデンミル、ストラスアーンなどと同じようです)、ホワイトオーク蒸留所は独特の円錐のようなポットスチル、岡山蒸留所はハイブリット型、津貫蒸留所も信州と同じく三宅製作所製のストレート型になります。フォーサイス製のポットスチルは数年待ちのようですので、ごく限られた蒸留所でしか導入できなさそうです。

*2:例えばキルホーマンの場合、ヘッドのタイミングは時間、テールのタイミングは度数で判断するなど、蒸留所によっては機械的に行う場合もあるようです。なぜミドルカットを人力で行うのかというと、そもそもヘッドのタイミングは18-19分程度とある程度見当はついているとのことでした。一方で秒単位でのミドルカットのタイミングとなると、その時使った麦の品種や季節で異なってくるようで、その点で機械的に行っていないようです。教科書的にはデミスティングテストという混濁試験を行い、ヘッドの終了点をみるなども書かれていますが、少なくとも秩父ではされていないようですし、他のところもノージングでやっているのではないでしょうか。このあたりも色々知りたいところです。

*3:後ろに見えるダンボールの山は出荷前?ボトリング前?のホワイトラベルです

*4:前回訪問時にはコルクのことについても聞きました。秩父のコルクに関して言えば、横向きにしてもコルク臭がつく確率は低いとのことでしたが、ワインなどと違って栓が甘いため、漏れの原因となることはある、との話でした。

秩父蒸留所を見学してきました。見学記②

前回の続きです。

 

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2.糖化

粉砕したグリストに含まれるデンプンを、発酵に使えるような糖類に変えていく工程を糖化と言います。一般論として、モルトウイスキーにおける糖化は、グリスト中に含まれる糖化酵素により行われますが、これを行う容器をマッシュタンと言います。マッシュタンにグリストと仕込み水を入れ、中に熊手状の撹拌翼*1があり、ゆっくりと撹拌することで酵素が反応し糖化が起こることで麦汁を得ることができます。

グリストが貯められたタンク(グリストビン)からお湯を混ぜて粥状になったもの(マッシュ)を、糖化層(マッシュタン)に張り込んでいきます。

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ゆっくりと撹拌することでマッシュタン内は2層に分かれ、ハスクが濾過槽を形成します。糖化自体は20分ほどで終わるのですが、ここからマッシュタンの底部へ麦汁(ワート)を濾過・抽出し、冷却の上、発酵槽に送り出します。ハスクによる濾過槽のおかげで、麦汁は濾過され、きれいなものが出来上がります。その後またお湯をスプレー状に流し込み、麦汁を抽出・濾過します。1回目の麦汁を一番麦汁、2回目の麦汁をニ番麦汁…というように名付けられ、秩父蒸留所では一番麦汁は64℃、二番麦汁は70℃台で抽出しているようです。二番麦汁は一番麦汁と対流がおこらないよう、二番麦汁より高い温度で抽出します*2が、70℃台後半になるとタンニンなどの成分も抽出され、また酵素が失活してしまうおそれがあるため、オフフレーバーの出ないような麦汁になるように温度を調節しているようです。

一番・二番麦汁を合わせて出来た麦汁は2000Lほどで、糖度14度程と熟した果実程度の甘さとなっているようです*3

二番麦汁までで98~99%の糖分は抽出されているのですが、更に糖を抽出するために、もう一度熱湯を入れ、三番麦汁を抽出します。それでも1-2%程度の糖度があるとのことで、廃棄する量を徹底的に少なくします。三番麦汁は96℃で抽出するなどし、翌日の一番麦汁の仕込みに使っているそうです。搾りかす(ドラフ)は家畜の餌にするなどし、なるべく無駄の起こらない生産に努めているとのことでした。

 見学時は2番麦汁を抽出していました。

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抽出した麦汁は、熱交換器(ヒートエクスチェンジャー)で20度程度に冷やされ、ウォッシュバックにパイプで運ばれます。写真では30度と指している用に見えますが、これは麦汁の温度なのか水の温度なのかは分かりません。聞いておけばよかったですね。恐らくラジエーター形式の交換機だと思われます。

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3.発酵 

次は発酵です。マッシュタンで抽出・濾過された麦汁がこの発酵槽に入れられ、酵母や乳酸菌により発酵していく過程ですが、ここが一番秩父らしいと言っても過言ではないのような気がします。ウォッシュバックはミズナラ製。アデルフィのアードナムルッカン蒸留所が最近ブナ科のウォッシュバックで発酵しているようですが、基本的にはステンレス・鉄はもちろん、木製であっても針葉樹ダグラスファーが一般的です。ウォッシュバックにオーク材、ミズナラを使い始めたのはここが世界でも初めてとのことです。

ミズナラの発酵槽にしても、この層に原酒がいれられるのは数日なので、実際にミズナラの香味がつくわけではありません。ミズナラの発酵槽にすることによる特徴は、発酵槽に住み着く乳酸菌の種類が異なることのようです。秩父の発酵槽は200~300種類ほどの乳酸菌が住み着いており、この乳酸菌の種類により、オレゴンパインやダグラスファーなどの針葉樹とはまた異なるフルーティーな香味が出来、それが秩父らしさに繋がるんじゃないかと期待しているとのことでした。勿論メンテナンスは大変で、何せどれだけの耐久性があるかはわからないとのお話もありましたが、それ以上に魅力的なものですよね。また木製だとある程度洗浄しても木の中に菌叢があるので、そう簡単に菌が落ちることがないといった利点もあるようです(洗いすぎは駄目かもしれませんが…)。

発酵槽(ウォッシュバック)には、マッシュタンでマッシングされた麦汁2000Lが入れられます。実際のウォッシュバックは3000L以上入りますので、上部には隙間があるようです。発酵の際にブクブクと泡がでるので、スイッチャー(泡きり)などを用いて溢れない量として2000Lとしているようです。今回あまりいい写真が撮れていなかったので、前回の写真で振り返ります。ウォッシュバックは全部で8基あります。

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 ウォッシュバックには麦汁と共に10kgの酵母を入れ、70-90時間発酵させます。一般論として発酵時間が短いとボディの強い原酒、長いとフルーティーな原酒になりやすく、最近は発酵時間を長めにしているとのことでした。一般的な発酵時間は48~70時間とも聞きますので、その点でも秩父の発酵時間の長さがわかるかと思います*4酵母スコットランドから取り寄せた、単一のディスティラリー酵母を日本で培養しているとのこと(確認していませんが恐らくケリー社だと思います)で、品種によって酵母を変えないのが秩父のやり方のようです。様々なことに挑戦するに辺り、今現在は酵母まで変えてしまうと、原酒の良し悪しに対するフィードバックが出来ないから、という理由のようです*5。長期的な展望を見据えての判断だと思いますし、なるほどと納得してしまいます。

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ウォッシュバックの作成会社は老舗の日本木槽木管株式會社さん。どれだけの耐久性があるのかもわからないとのことで、今後が非常に気になります。

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ウォッシュバックの中を見せていただきました。これは発酵27時間程度のもののようです。泡きりのスイッチャーは撮れていませんが、多分回っていると思います。CO2が溜まっているので大きく吸いすぎないように、という注意がありました。27時間だと結構CO2が出てきていると思われますし、酵母の増殖が終わり、嫌気呼吸を盛んにやっている時期でしょうか。香りは非常にフルーティーで、ベルジャンホワイトのようなトロピカル感があります。実際飲むとホップのないビールのような感じらしいです(酒税の関係で安々と飲めないでしょうが…)。

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ウオッシュバックも、蒸留器の手前側にあるものは途中増設されたものでした。

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 出来たもろみは7-9%程度のアルコール分を有し、これを蒸留にかけます。

 

長くなりましたので、次回に続きます。

次回以降は、前回訪問時の写真との比較も交えていきたいと思います。

 

*1:レイキと言います。

*2:温かいお湯は上に留まりやすいため、一番麦汁と混ざりにくく、フタをするような形になるようです。対流を起こしてしまうとグリストの層が壊れてしまいます。

*3:基本的には糖度が高いほどアルコール度数の収率に関わってきますので、この辺りは生成アルコールには非常に関係の強い部分だと思います。一方で透過されなかった多糖類やタンパク質なども、香味の形成には十分に作用していますので、どうすれば美味しいウイスキーになるのかは興味の湧くところです。

*4:基本的に酵母の増殖は長くても48時間ほどで止まると言われますし、ミズナラに生息している乳酸菌の発酵時間を意図的に増やしているのだろうと推察します。先日行ってきたウルフバーンのセミナーでは、ステンレス製のウォッシュバックで72時間発酵しているが、ステンレス製ウォッシュバックでは72時間以上の発酵時間は菌が殆ど死滅しておりあまり意味がない、といった話も聞きました。72時間Overの発酵が出来るのは木製ウォッシュバックならではなのでしょう。

*5:一般論として、ビール酵母やエール酵母などの多様な酵母を用いて熟成したほうが、フルーティーさの強い原酒になるという話はあるようですし、60-70年代のウイスキーと最近のウイスキーの違いはこの点にあるのではないかと考えている人とお会いしたこともあります。もともと南信州ビールの開発にも携わっていた、マルスの竹平所長のところでは、その経験を活かし駒ケ岳蒸留所で多用な酵母を使っているという話を聞いたことがあります。一方でスコットランドの蒸留所では単一のディスティラリー酵母を使うことも多く、酵母の影響はあるとは思いますが、これは大麦の品種の話と同じなのでしょう。大麦の品種は関係はあるが、それ以上にモルティングの工程の方が影響力として強いという話がありますが、酵母もそのような色合いが強いように思います。この辺りは他の蒸留所でも是非考えを聞いてみたいところです。

秩父蒸留所を見学してきました。見学記①

昨年9月に行ってきました秩父蒸留所ですが、その見学記が未完のまま、再訪を果たすことができました。この9ヶ月、自分の中のモルトに対する認識も変わって変わってきた今、同じ蒸留所でも感じるものは全く違うように思うだろうという意気込みで行きましたし、実際得るものも大きかったと思います。前回途中まで書きかけて終わってましたが、これを機にきちんと書こうかと思い、再度はじめから書くことにします。一部重複するところもあるかと思いますが、ご容赦ください。

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 秩父の道中。市内は長閑で山あいの風景が続きます。盆地という地形ならではの眺めです。

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入口にはポットスチルが。羽生のポットスチルなのでしょうか?

当日は天候にも恵まれ、梅雨の合間の晴れ模様が素晴らしい日でした。

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0.ビジターセンター

昨年と大きな違いはないですが、今年受賞されたWorld Whisky Awardsのトロフィーなどが飾られていました。

 

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 尚、写真撮影等はフリー、特に隠していることもないという寛容さも秩父蒸留所らしいところに思います。ここぞといろんなことを質問させていただきましたが、同行者のレベルが高すぎて、かなりマニアックな見学になったことを付け加えておきます。

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川崎グレーンの長熟のサンプルや、トマーティンのサンプルもありました。

トマーティンはホワイトラベル用のサンプルでしょうか?

さて、ビジターセンターでの待機・見学が終わったところで、一行は吉川アンバサダーの案内で蒸留所へと向かいます。

 

1.粉砕

秩父蒸留所は通年ウイスキーを仕込んでいますが、夏場は冷却に大量の水を要してしまうなどの理由で、7-9月中旬はメンテナンスの時期とし、清掃など行っているようです。清掃直前にピーテッドタイプの蒸留を行うとのこと。今回は25kgの小袋、ノンピートの蒸留を行っていました。

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秩父蒸留所は殆どはモルトスターからの買い付けで蒸留しており、買い付け先は写真の通りイングランドのクリスプ社、またドイツなどからも輸入しているようです*1。ピーテッドタイプはスコットランドから取り寄せているようですが、インバネスアバディーンの間あたりのピートを使っているとのことで、ヘザーや枝のピートがメインとなっているとのことでした(会社名は聞いてないのですが、シンプソンズ社のような気がします)。フェノール値は50ppmと、ボウモアの25ppmやラフロイグの35ppmよりもヘビリーなピートですが、前述の通りの内陸ピートなので、磯とか海藻といったニュアンスは出にくいんじゃないかとのお話でした。

最近は秩父の大麦でも蒸留を行っていますが、収穫ムラなどのリスクが有るため、様々な麦芽を用いているとのことでした。写真の後ろに積まれているモルトを全部400kgを全部使い、これから200Lの原酒を作るとのことでした。生産能力としては、1週間に10樽程度、およそ2000Lとのことで、年間約9万リットルの生産となるようです。

9万リットルは山崎蒸溜所では2-3週間、ローズアイルでは2-3日、グレーンでは2-3時間で生産される量とのことで、以下にこのマイクロディスティラリーとしての秩父の規模の多きさがわかると思います。世間で品薄が騒がれていますが、品薄なのもしょうがないよなあと(なにせ手作業の部分が圧倒的に多いですし)。

さて、入荷した麦芽はディーストナー(除塵機)で小石などを取り除き、コンベアーで運ばれ、ミルで粉砕されます。大体30分で粉砕が終わり、この粉砕によって生成されたものをグリストと言いますが、ここからきれいな麦汁を抽出するために、天然のフィルターを形成させます*2。これを作るのがグリスト・セパレーターです。

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このグリスト・セパレーターでグリストを5分ほど篩いにかけると、ハスク・グリッツ・フラワーの3つに篩い分けられます*3。前の見学記にも書きましたが、次の工程で糖化した麦汁を濾過する際に、濁りのないきれいな麦汁を作るためには、適度な粗さの濾材が必要になります。この濾材となるのがハスクです。例えばフラワーが多すぎると細かすぎると抽出時に目詰りし、またハスクが多すぎると抽出時に十分糖化された麦汁が出来ないという問題が生じます*4。基本的なハスク・グリッツ・フラワーの率は2:7:1となるように篩い分けされるとちょうどよく抽出されるとのことです。ただ、これはあくまで目安の比率で、品種ごとにミルによる砕け方が変わりますし、季節により湿度も異なるので、日々微調整をしているとのことでした。モルトミルのダイヤルも日によって異なるようで、ここは経験によるところが大きいとのことでした。ウイスキー製造は引き算で考えるとよく、この時点でバランスが悪いと今後の原酒の出来が悪くなる、ここで70点などにせず、100点以上のものを作らないといけないという言葉が印象的でした。

なお、ミルはアラン・ラドック社のAR2000です*5。本国では無料でメンテナンスしてくれるようなのですが、流石に日本まで業者が来てメンテナンスしてくれるわけではないので、実際に渡英し、メンテナンスの仕方を2年ほど勉強したとのことでした。

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 また、ここで出てきた話として、品種で味が変わるのか?ということも話題に上がっていました。経験上は味は変わる、と言っていましたが、一方でやはり樽の方が大事であることも仰られており、ワインなどと異なり、品種よりも樽が全面的にラベルに貼られていることを引き合いにお話されていました。

長くなりましたので次回に続きます。

*1:記憶が正しければDURST MALZ社から取り寄せている写真を見たことがあるので、同社だと思われます。

*2:一般的に、糖化した麦汁は濾過し、濁りのない麦汁にする必要があります。ウイスキー製造の場合は、これを一つのマッシュタンで行うワンステップ・インフュージョン法を用いるのが普通です。

*3:ハスクは粒径1.4mm超、グリッツは1.4mm~0.2mm、フラワーは0.2mm以下とされます

*4:一般論として、粒径が細かいほど糖化時に糖分がたくさん得られますが、脂肪分も多く抽出されてしまい、この脂肪分が発酵過程で香味成分生成の阻害をしてしまうようです。その為グリッツ程度の粒径が好ましいとされています。

*5:ここではあまり話題に挙がりませんでしたが、蒸留所の設計から蒸留器を作ることで有名なフォーサイス社(厚岸蒸留所が創立時にフォーサイス社の職人が泊まり込みで設計や設備の設営、メンテナンスをしていたのが有名になりました)はミルは作っていないのですが、アランドックのAR2000は同社からおすすめされる機種と聞いていますし、それほどメジャーなモルトミルのようでです。三郎丸蒸留所がクラウドファインディングで達成したモルトミルもこれで、やっと導入できると伺っています。写真にある通り、4つの無段階ダイアルがあり、これを回すことで粉砕の幅を変えることが出来るようです。つまみには数値が書いてありますが、これが何の単位なのかよくわからないところもあるという話も見学中に聞こえてきました。

グレンドロナック 1968-1993 25年 43% OB

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評価:S~S+
香りは陶酔感のあるシェリー香、プルーン、白ワイン、柔らかくもしっかりとした麦っぽさ
飲むとアプリコット、プラムジャム、白ブドウ、コニャック、やや強めの樽感、グラノーラ、蜜豆、うっとりする長めの余韻。

グレンドロナックの1968年蒸留、1993ボトリングの25年ものです。
グレンドロナックは、アバディーンのハントリー郊外にある蒸留所で、過去にはスペイサイドとも分類されていましたが、現在はハントリーより東を東ハイランドとする分類が一般的です。

1826年に地主ジェームス・アラダイスによって創業されたこの蒸留所ですが、その語次々と買収され、1960年にはウィリアム・ティーチャー社が買収、ティーチャーズの原酒として使われていた経緯があります。その後アライド社に買収され、1996年までフロアモルティングを実施していました。同年に蒸留を停止、2002年より蒸留再開となり、2005年までは石炭直火蒸留をしていた蒸留所としても有名かと思います。2005年にはアライド・ドメック社からペルノ・リカールへ、2008年にはベンリアック・ディスティラリーズによる買収があり、次々とシングルカスクが発売されたのは記憶に新しいと思います。2016年4月28日にはジャックダニエルのオーナーであるブラウン・フォーマン社が買収し、今後はシングルカスクのリリースはほぼ見込めないのかもしれませんが、いまのところ大きな動きはないように思います。原酒不足はどこの蒸留所でも言われていることですし、ドロナックに限ったことではないのかもしれません。

さて、このボトルは1968年のグレンドロナックのボトルになります。ベンリアック・ディスティラリーズが所有していたときの最古のビンテージが1968年と聞いたことがありますし、実際1968年のリリースは過去には多数あり、例えばANA免税店向けのドロナックなどは有名なのではないでしょうか。このボトルはANA向けではありませんが、同ビンテージの原酒とのことで、非常に期待してテイスティングさせていただきました。
43%のリリースでおそらく加水ですが、加水を思わせない陶酔感のあるシェリーや果実香、葡萄の皮や白ワインのようなフルーティーさが複雑に広がり、飲んでいても同様の複雑な果実香や、豆っぽさを感じます。このレベルは特に客観的に評価できるレベルではないんですが、某所で点数をつけられるなら90点後半に行くか行かないかといったところでしょうか。ともあれ、非常にレベルの高いドロナックでした。

キャパドニック 1972-2011 39年 ザ・ウイスキーエージェンシー プライベートストック 52.8%

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Caperdonich 1972-2011
39 year old
THE WHISKY AGENCY PRIVATE STOCK
CASK:EX-SHERRY HOGSHEAD
52.8% alc/vol
O/T 57 bottles

評価:S

香りはグレープフルーツ、プラム、生搾りのパイナップル、ライチ、ナタデココ、白い花、優しい麦の甘み。複雑な果実香が広がる。
飲むとパイナップル、白い花、ライチやナタデココのフルーツポンチ、バニラビーンズ、ミント、余韻はやや強めの樽のタンニン、シナモンやジンジャー。

 

ウイスキーエージェンシーのプライベートストックより、キャパドニックの1972年、39年熟成です。

キャパドニックは、1898年にグレングラントNo.2として創業しますが、すぐに1905年に操業停止、1865年には再度操業再開、77年にはシーバス社に買収され、2002年には閉鎖という経緯を辿った蒸留所です。現在蒸留所は解体されましたが、そのときにどうやら部品の売買があったようで、キャパドニック麦芽エレベーターやウォッシュバックはウルフバーンで現在使われているようです。

キャパドニックは今回のボトルのような72ビンテージのトロピカル感が人気だったように思えます。流石にこのアウトターンでTWAとなると、このボトルは殆どゲットできた人はいなかったんじゃないでしょうか。このボトルは初めて飲みますが、期待を裏切らない出来でした。

香味からは、確かにパイナップルやライチといったような、少し繊維質のある南国系のフルーツがあり、飲みごたえのあるモルトでした。飲みごたえも十分で香りと味のギャップもあまりなく、トロピカル満載の美味しいモルトでした。

このボトルは札幌の有名モルトバー、無路良さんにて戴きました。東京のモルトバーだとすぐになくなってしまいそうなスペックですが、地方のモルトバーでは時々こういう過去のボトルが開けられていることが多いように思います。地方という厳しい環境のなかでモルトバーとして成立させている経営手腕も去ることながら、ボトルのマネジメントも上手いのでしょう。札幌に寄る機会があれば行きたいモルトバーの1つです。

ちょうど札幌が実家なのですが、すすきのにはモルトバーが充実しており、そのおかげで実家に帰りたい想いが強くなりますので、結果的には親孝行になっているのでしょうか(笑)ともあれ、ごちそうさまでした。